Blog たか高Diary
たか高の今を伝えます
「提言2025」に登場! _たか高卒業生・国立文化財機構理事長 島谷弘幸さんが文化と暮らしを語る
高梁高校の卒業生であり、現在 国立文化財機構理事長 を務める 島谷弘幸さん(昭和47年普通科卒) が、6月22日付の山陽新聞のコラム「提言2025」に登場されました。テーマは「生活の中で文化に親しむ」。文化の力で心を豊かにし、暮らしに潤いを与える大切さについて語っておられます。
提言2025 生活の中で文化に親しむ 国立文化財機構理事長 島谷 弘幸氏 本物に触れ豊かな時間を
/掲載日:2025年06月22日/紙面:山陽新聞朝刊/掲載:4ページ/
高梁市で生を受けて、大学に進学するまでの多感な時期を過ごした。岡山県は故郷であり、心のよりどころでもある。
私の人生にも、さまざまな出会いがあった。小学校2年の担任の先生から「島谷君は落ち着きがないからお習字でもしたら」という助言で、母は町の書道教室に私を連れて行った。この出会いが、自分の人生について回るとは思ってもいなかった。
高校時代には理系の進路に向かう判断をしていたが、3年の冬休みに文系への転身を決め、東京教育大(現在の筑波大)の芸術学科書専攻に進んだ。恩師で古筆学の第一人者・小松茂美先生との出会いから、学問の道に入ることになって、今日の私がある。
ところで、岡山県は文化や芸術を用いての地方創生に努力されている。そこで提言というか、お願いである。ぜひ皆さんの生活の中に、文化資源を持つ博物館や美術館を加えてほしい。
季節ごと、岡山の多くの文化施設は春には春の、夏には夏のものをやや先取りし、テーマを変えながら展示している。言葉は悪いが“今日はすることがないので博物館にでも行こうか”となってほしい。
これは博物館にとっては悪口ではなく、むしろ褒め言葉で居心地が良いということである。私も運営に携わるようになり、人の動きをじっくり見るようになった。ブームにあおられ“阿修羅を見に行く、(伊藤)若冲を見に行く”という人もいるが、雨が降ったから博物館に行く、という人もいる。後者の心は、人が少なくゆっくり見ることができるからである。
博物館は、本来は良い鑑賞環境で文化資源(美術品)との対話によって心を豊かにし、活力を生む場である。地元の人が足を運ばない施設には、他県の人も目を向けないことを知る必要がある。
私が前職の九州国立博物館長に異動して、早い時期に取り組んだのが環境づくりである。例えば、敷地内の小高い山ののり面に桜を250本植栽した。今では“博物館でお花見を”が実現している。勉強しに来ていただいてもよいが、花見でもよい。建物の設計が際立っていれば、それを眺めるのもまたよし、である。
歩き疲れたら休む所がほしいとなるのも当たり前。館内での休憩もよいが、岡山の広い文化ゾーン、倉敷の美観地区に居心地の良い食事どころなり、喫茶スペースがあればさらに次への足が向かうであろう。
文化は特別なものではない。生活の中に生きているのが文化である。心にゆとりを持つことが文化資源の活用となり、生活の活力となる。
ここで、前置きをあらためて読んでほしい。きっかけは何でもいいが、幼いころにスポーツでも習い事でも身につけたもの、好きで鑑賞したもの、勉強したことは、思いもしないところで自分の教養となり、役に立つ。
進学のための勉強だけではなく、視野の広い人間を育てるための、ゆとりの時間があってもよいのではなかろうか。ことに生徒や学生、あるいは未成年は無料などの配慮とともに、情操教育に力を入れることが重要である。
提言は簡単なことである。自宅でも、博物館でもよいので、日々の生活の中で、美しいもの、興味があるもの、本物に触れ合って、楽しく豊かな時間を過ごしてほしい。
しまたに・ひろゆき 1953年高梁市生まれ。高梁高、東京教育大(現筑波大)卒。専門は古筆学、日本書道史。84年より東京国立博物館に勤務し、学芸研究部長、副館長、九州国立博物館長など経て2021年4月から現職。23年10月から皇居三の丸尚蔵館長兼務。
#高梁 #たか高 #高梁高校 #たか高ストーリーズ #卒業生インタビュー #島谷弘幸 #国立文化財機構 #山陽新聞 #生活と文化 #博物館のある暮らし #本物に触れる